2011年3月24日木曜日

「損保数理 第10章 リスク評価の数理」を読む(5)

アクチュアリー試験1次試験の指定テキスト『損保数理』に先日の改訂で追加された、第10章 リスク評価の数理を読む。

10.3.5コピュラ(接合分布関数)、10.3.6コピュラの例
簡単のため、X、Yの2変数による2次元の連続確率分布を考える。


テキスト中、コピュラは「すべての周辺分布が[0,1]上の一様分布であるような多次元の同時分布関数」として定義されている。
この定義から、次のような性質が導かれる。

F(X,Y)をコピュラとする時
(A1) F(X,1)=X,F(1,Y)=Y  (周辺分布が一様分布であることより)
(A2) F(X,0)=0,F(0,Y)=0,F(1,1)=1  (F(X,Y)が連続確率分布であることより)
(A3) X1≦X2,Y1≦Y2のときF(X2,Y2)-F(X2,Y1)-F(X1,Y2)+F(X1,Y1)≧0
(F(X,Y)が確率分布であることより。つまりP(X1≦X≦X2,Y1≦Y≦Y2)≧0ということ。)

逆にA1~A3をもってコピュラを定義するような向きもあるようだ(その方が数学らしくはある)が、そういうのは基本的にとても丁寧な議論をしなければならないときに必要であって、また、F(X,Y)が確率分布になることなども合わせて議論していく必要があり、逆にめんどうだと思う。テキストのように、コピュラとはすべての周辺分布が[0,1]上の一様分布であるような多次元の同時分布関数の通称である、というぐらいのスタンスのほうが良さそうだ。

A3でY1=0,Y2=Yとすることで、
(A4) X1≦X2のとき F(X2,Y)-F(X1,Y)≧0  (単調増加)
が言える。Yについてももちろん同様。

A1,A4から
F(X,Y)≦F(X,1)=X,F(X,Y)≦F(1,Y)=Y
よって
(A5) F(X,Y)≦min(X,Y)  (フレシェ-ヘフディング上界)
が導かれる。
逆にF(X,Y)=min(X,Y)はコピュラであるので、これは最大のコピュラである。

A1,A2,A3から
F(1,1)-F(1,Y)-F(X,1)+F(X,Y)=1-Y-X+F(X,Y)≧0
F(X,Y)-F(X,0)-F(0,Y)+F(0,0)=F(X,Y)≧0
よって
(A6) F(X,Y)≧max(X+Y-1,0)  (フレシェ-ヘフディング下界)
が導かれる。
逆にF(X,Y)=max(X+Y-1,0)はコピュラであるので、これは最小のコピュラである。

いま、X,Yはそれぞれ一様分布U(0,1)に従うとする。

<完全な正の相関>
Y=Xの関係があるとする。

この時
F(x,y)=P(X<x,Y<y)
=P(X<x,X<y)
=P(X<min(x,y))
=min(x,y)
つまりコピュラは共単調コピュラとなる。

<完全な負の相関>
Y=1-Xの関係があるとする。

この時
F(x,y)=P(X<x,Y<y)
=P(X<x,1-X<y)
=P(1-y<X<x)
=max(x+y-1,0)
つまりコピュラは反単調コピュラとなる。

<独立>
XとYは独立であるとする。

この時
F(x,y)=P(X<x,Y<y)
=P(X<x)P(Y<y)
=xy
つまりコピュラは積コピュラとなる。

コピュラの一意性より、上の3ケースはそれぞれ逆も成り立つ。
正の相関・負の相関をそれぞれコピュラの大小と結びつけて考えられそうに見えるが、そのあたりの定量的な関係はよく分からない。

その他、アルキメデス型コピュラ、楕円コピュラと呼ばれるクラスの例がいくつか載っている。これらがコピュラであることも証明したいが、分からなかった。
アルキメデス型コピュラの名前の由来が何なのかというのも分からなかった。アルキメデスの名が冠される、関係ありそうなジャンルのものは、実数論で出てくる例のアレ(任意の正の実数a,bに対し、あるn∈Nがありna>bとなる)くらいしか知らないのだが、関係あるのだろうか・・・。

#10.3.7節、10.3.8節はスキップします。(このブログ内に記事はありません。)

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